『阿是穴(あぜけつ)鍼灸師2』
さて、阿是穴(あぜけつ)鍼灸師の続きです。
今までは、筋肉へのアプローチをご紹介しましたが、ここからは、より高度な「経絡治療」という話です。
鍼灸には、「患部から離れたところへの施術ほど効果が高い」という考え方があります。
私の経験では、別件の治療で来ておられた患者さんが、「左目から涙の油成分だけが出て、目の外側の痛みがひどく、今から眼科に行く」という事でしたので、物は試しと、目の外側から足に至る経絡の足首付近のツボを鍼で刺激してみたら、あっさり治ってしまった事があります。
また、私自身が声帯ポリープで手術を受けなければならない予定だったんですが、絶対に1ヶ月後の手術を受けたくなくて、鍼灸でなんとかならないものかと考えました。
もちろん声帯ポリープのツボなんて無いんですが、肺の経絡が喉を通るので、効くんじゃないか?と考えて、肺経の経穴3箇所にお灸をしたら、翌日から痛みがなくなり、オペの1週間前に最終チエックしたら、ポリープが小さくなっていて、オペが中止になった事があります。
2ヶ月後に最終チエックしたら、さらに小さくなっていて、完治扱いとなりました。
痒みに効くツボなんてのもあります。
これには、裏内庭(足裏)、百虫窩(膝外側上方)、治痒(肩の付け根付近)が有名で、私自身、よく奥さんが痒みが出るので使いますし、以前、インフルエンザの予防接種後に薬疹が出たという方にも使いましたが、1発で治った事があります。
さらに、うつ病とか、自律神経失調症の場合は、頭部にも鍼を行い、電気刺激を加えますが、精神的な問題の場合、「精神がどこにあるか?」という難問に取り組む必要があるわけで、つまり、阿是穴を狙う事が不可能なので、経絡治療が中心になります。
方針としては、全身の気、血、津液(しんえき)を整えることを目標とします。
余談ですが、私は、他の鍼灸師さんに比べて、鍼数が多いようなんです。
鍼灸の考え方で、「鍼は、幹部から遠いほど、少ないほど良い」
という考えがあるのは解っていますし、それを目指してはいますが、その一方で「鍼が多い方が力は増すので、効果は高い」という方もおられます。
これは全く逆の話なんですが、鍼灸の世界では、こういう事がちょいちょいあります。
私の場合は、まだまだ未熟なので、鍼数に頼った施術をするわけですが、結果的に全身にかなりの数の鍼をすることになります。
そうすることで、全身の気、血、津液を満遍なく回らし、体を整えて行く事ができるわけです。
いくつか例を上げましたが、今回ご紹介したように、鍼灸の施術においては、大きく分けると
①局所を狙って施術を行う
②局所を外して施術を行う
という、真逆の二つの方針が存在します。
鍼灸師は、この二つを症状、状態に合わせて使い分けたり、併用したりして施術を行うわけですが、ざっくり区分すれば、
整形外科的な症状は①
内科的な症状は②
を中心に組み立てる事が多いように思います。
実際にはそんなに単純では無いですけどね。
もし、鍼灸施術を受ける機会があったら、こういう部分も注目してみていただくと、より一層、鍼灸、東洋医学を理解できるかもしれません。